• 「R」作品紹介

  • 曲り道に出会うたび道の先に消え入りそうな感情が湧きおこる。
    カーブの先の見えない風景に惹き寄せられ、この世の結界を越えていく浮遊感がやってくる。
    初めて出会った曲り道に、以前通過したような既視感を覚えることがある。
    そんな曲り道が、合わせ鏡のようにペアになった瞬間、二つの曲がった景色が錬金術のように循環しだした。
    「R」はカーブした道のイニシャル(Radius)であり、曲り通が重なり合ってできた中央の隙間で、新たな感情が再生される(Reborn)「R」でもある。
    曲り、隠れ、消え、トリップしながら、此岸を離れて別天地へ誘う「R」。日本の路上には、いつまでも巡っていたい循環する隠遁景があった。

    2006年 (H.18) 7月7日
    中里和人

     

      見れば見るぼどじわじわと味わいが出てくる写真集。とはいえ、中里和人の『R』の構造そのものは単純である。左ページに右にカーブしていく道の写真。右ページには左にカーブしていく道の写真。そんなセットが全部で30組、淡々と並んでいるだけだ。
      ただそれだけの写真集なのに、なぜ心引かれるのか。それはおそらく、これらの写真を見ているうちに、僕白身が道を歩いていて、こんな風景に出会った時の記憶が鮮やかに建ってくるからだろう。
      カーブには不思議な魅力がある。この先に何があるのだろうという、どこか不安な、だが心躍らせる感情。中里自身の言葉を借りれば「この世の結界を越えてい く浮遊感」といってもよい。そのカーブが二つ揃うと、なんだか「錬金術」のように見慣れない風景が出現してくる。たとえば、茨城県日立市と沖縄で撮影され たカーブが合わさった瞬間に、永遠に循環するメビウスの輪のような眺めが見えてくるのだ。
      タイトルの『R』には「半径(RadiuS)」と「新たな感情が再生される(Reborn)」という二つの意味を掛けているという。たしかにカーブのある 風景には、どこか遠い場所にわれわれをさらっていく力が秘められているように感じる。今のところ日本の風景だけだが、『R』の海外編もぜひ見てみたい。

    飯沢耕太郎(写真評論家)

    朝日新聞 2006年 (H.18) 10月26日

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